中原中也記念館に行った日 〜前編〜/服部 剛
僕の部屋のベッドの枕元には、去年の夏の終わり、一人旅をした
時の写真が入ったままの白いビニール袋が置かれている。中から取
り出した無数の写真の中の一枚に、雨の降る公園に立つ石碑があ
り、幾本もの細い雨の筋が髪の毛のように伝っている石碑には、一
編の詩の言葉が直筆の白い文字で刻まれている。
これが私の故郷だ
さやかに風も吹いてゐる
あぁ おまへは
なにをして来たのだと・・・
吹き来る風が私に云ふ
中原中也の「帰郷」という詩から抜粋された四行である。低い山
々の緑に囲まれた山口県・湯田温泉に、約七十年以上前に帰郷した
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