夕焼けが眠る川/mina
ピアノバーで
その男は
いまでも
ピアノを弾いているらしい
アップライトピアノが
備えつけられている
小さなバーで
*
夕焼けが
川のどこかに隠れていると
聞いたのは
ずいぶん昔の話だ
通り雨の落ちる
川のどこかに
眠っている夕焼けが
あると
木立に絡まった雲の裾が
冬日に揺れる暖かい日だった
わたしはその朝
窓から薄紫に広がるグラデーションの空を目にした途端
君の顔がみたくなって
一対のコップと魔法瓶をもって
川原に出掛けようと電話ごしに 起き抜けの君を誘った
魚が泳ぐたびに
水面の群青色がまわって
映る空の儚い透明さ
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