セーヌ川の畔で /服部 剛
開店時刻の前
Cafeのマスターは
カウンターでワイングラスを拭きながら
時々壁に掛けられた一枚の水彩画を見ては
遠い昔の旅の風景を歩く
*
セーヌ川は静かに流れている
両岸に架かる橋の向こう
ノートルダム大聖堂の背後に建つ尖(とが)った塔の頂は
低く垂れ込める曇り空を指している
パリを行き交う人々に紛れて
異国の若い旅人は一人料理人の職を探して
行方知らずの明日へと彷徨(さまよ)う
川沿いに並ぶ屋台に置かれた一枚の絵が目に留まり
彼は無名の画家から買った絵を入れた袋を手に
再び歩き始める
音楽家・・・絵描き・
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