セーヌ川の畔で /服部 剛
 
開店時刻の前
Cafeのマスターは
カウンターでワイングラスを拭きながら
時々壁に掛けられた一枚の水彩画を見ては
遠い昔の旅の風景を歩く 


 *


セーヌ川は静かに流れている
両岸に架かる橋の向こう 
ノートルダム大聖堂の背後に建つ尖(とが)った塔の頂は
低く垂れ込める曇り空を指している 

パリを行き交う人々に紛れて 
異国の若い旅人は一人料理人の職を探して 
行方知らずの明日へと彷徨(さまよ)う

川沿いに並ぶ屋台に置かれた一枚の絵が目に留まり 
彼は無名の画家から買った絵を入れた袋を手に
再び歩き始める 

音楽家・・・絵描き・
[次のページ]
戻る   Point(12)