セーヌ川の畔で /服部 剛
き・・・詩人・・・
それぞれの想いを抱えてパリに集う誰もが
川沿いの霞(かすみ)がかる道の向こうに
手探りの夢を探している
うつむいて歩く彼の方を
川の畔(ほとり)で地べたに座り
酔っ払っているホームレス達が見ていた
不思議と幸せそうに並ぶ微笑に吸い寄せられて通りかかると
「 旅人よ、今日という日を楽しもうじゃないか 」と
回し飲みの酒瓶を差し出され
酔っ払った彼は地べたに座り
皆と肩を並べて唄った
*
十年以上の時が流れ
マスターは鎌倉のCafeで今日も
あの頃の旅の記憶を弄(まさぐ)るようにワイングラスを拭きながら
壁に掛けられた一枚の水彩画をみつめる
*
若き日の旅人は腰を上げ
地べたに座るホームレス達に手を振り歩き始め
パリを行き交う人々に紛れた彼の背中が消えてゆく
川沿いの霞がかる道の向こうへ
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