小説「料理とワイン」/緑茶塵
 
で「したと思うわ」そう答えた。
「多分、同じ事をしたわ」
私はふと、ピアノの音がさっきより早くなっているのに気がついた。
「曲が変わったみたいね」
「あのピアニストは、ここのウェイター?」
「そうよ、料理以外全部一人でやっているの」
「え?」
「ここ、彼の店なのよ」
私はピアノを弾いている、この店の主を眺める。表情に暗いところが無い、精悍で強い目つきをしている。最もただのウェイターだと思っていた私の観察眼など、上司に言われて意見を変えた事と、大した違いは無いだろう。
「格好いいでしょ?」
「ええ、格好良いと思います」
私の上司は、とても機嫌が良いようだった。そして、少し得意気
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