小説「料理とワイン」/緑茶塵
司は新しいワインを、気持ちよさそうに飲んでいる。ここは彼女の大切な隠れ家なのかもしれない。
「ねえ」
私の上司は、珍しく少し酔っていた。
「何であなたをここに連れてきたかわかる?」
ピアノの音は会話の邪魔にもならず、ゆっくりと丁寧に、何かに刻み込まれた流れを表現するように、わたし達を通り過ぎていった。
「お礼が言いたかったのよ」
よく聞こえなかった。多分そう言ったはずだ。
「もし、あなたが……」
「よく聞こえないわ」
「もし、今回私とあなたの立場が違ったら、あなたは私と同じ事をしましたか?」
彼女はワイングラスを片手に、しばらく無言で考えていた。
やがてはっきりとした口調で「
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