小説「料理とワイン」/緑茶塵
で、もっともこの店は本当に狭くてテーブルは二つしかないし、もう一つのテーブルには果物やワインや花が、丁寧に並べられていた。
「乾杯しましょう。何のお礼も出来ないけど、せめていい気持ちでお酒が飲みたいの」
私はグラスを手に取ると、乾杯の仕草をした。
「もうワインが無いわね」
二度目の乾杯を終えると、ワインの瓶は空になっていた。
頼みもしないのに、ふっとウェイターがやってきて(かなりの年だ)冷えたワインと取り替える。よく冷えていて、実に飲み心地がよさそうだ。
ウェイターはそのままピアノの椅子につくと、ゆっくりと綺麗な旋律を奏で始めた。
「良い曲ですね」
「そうでしょう?」
私の上司は
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