小説「料理とワイン」/緑茶塵
彼女はナイフとフォークを置いた。
「そんな事も無いわ。それにあなたは、そんな事にこだわる人間には見えないの。出来ればそんな風に考えないで欲しいの。確かにキャリアにも査定にも何の影響も無い。それは残念だけど本当の事よ。自覚してくれているなら、助かるわ」
私は返事をせず、食事もワインにも手をつけなかった。
悪く取らないで、私の上司の声は、少しトーンが落ちたかもしれない。
「繰り返すようだけど、本当に助かったのよ。あなたのした事は誰にでも出来る事じゃないと思ってるわ。あなたがお金や組織での評価の事ばかり考えていたら、あんなふうには出来ないことだったと思うの」
部屋の中には、わたし達二人だけで、
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