ある日の夢 〜鎌倉の寺へ〜/服部 剛
いもみじの手のひらは秋風に踊り
高く澄んだ空を今日も讃えている 」
天気雨に降られながら傘も無く墓前にしゃがみ
瞳を閉じて手を合わせる
強まる風雨に草々が騒ぎ出し
戻ろうと背を向ける
細い柱の上に郵便受けの木箱があり
小さい扉を開くと
墓石の下に眠る詩人が
四十年前に書き遺した
古びた詩集が置かれていた
項を開くと
一編の詩に描かれた情景は
入院した深夜の個室
自らの死を悟った頬のこけた詩人は
入院した日の電車の窓の外に見た
意気揚々と職場へと向かって橋を渡る若者達を
暗闇の天井に想い浮かべ
目を細めていた
項を閉じて
詩集を
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