門出/服部 剛
朝早く
風呂場(ふろば)にしゃがみ頭を洗っていると
電気に照らされたタイルに小さい光の人形(ひとがた)が現れ
こちらへ手を差し出した
思わず光の手を握ると
タイルの裏側へするりと右腕は吸い込まれ
「平凡な毎日」
とは別の世界へ行けそうな気がした
が
右腕だけがタイルの下に埋まったまま
残った体はくい止められて
なかなか入れない
振り返ると
親父と母ちゃんと姉ちゃんと婆ちゃんと
何人かのかけがえなき友が
僕の体がタイルの裏側へ吸い込まれぬよう
僕の透明な首輪に結ばれた光の糸を
皆で握って
歯を喰いしばり
引っぱっていた
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