ノート(春の蛇)/木立 悟
荒地に倒れた鉄塔に
花と葉と鱗に覆われた子が棲んでいた
やまない雨のなか
たったひとりで
ひとりの赤子を生んだあと
風の向こうへと去っていった
雨が近い午後の下
倒れた鉄塔のまわりにひろがる原で
少女はひとり舞っていた
少女の頭上の
見えない花の冠に
見えない蛇が腰かけていた
蛇はささやく
今日は遠い
原の向こうに去ってゆく
少女はささやく
明日は近い
すぐそばにいて私を見ている
蛇は言った
故郷がどこか私は知らない
生まれた朝を私は知らない
ある日気付いたらここに居たから
少女は言った
故郷なんて要らない
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