ノート(春の蛇)/木立 悟
 


荒地に倒れた鉄塔に
花と葉と鱗に覆われた子が棲んでいた
やまない雨のなか
たったひとりで
ひとりの赤子を生んだあと
風の向こうへと去っていった


雨が近い午後の下
倒れた鉄塔のまわりにひろがる原で
少女はひとり舞っていた
少女の頭上の
見えない花の冠に
見えない蛇が腰かけていた


蛇はささやく
今日は遠い
原の向こうに去ってゆく
少女はささやく
明日は近い
すぐそばにいて私を見ている


蛇は言った
故郷がどこか私は知らない
生まれた朝を私は知らない
ある日気付いたらここに居たから
少女は言った
故郷なんて要らない

[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(3)