白い花に囲まれた寝顔 〜 K 婆ちゃんに捧ぐ 〜/服部 剛
婆ちゃん、
僕等の施設に入って間もない頃のあなたは
夜中に騒いで椅子を投げたかと思えば
翌日の職員演芸会では大根役者の演技を見ては
「バンザーイ!」と両手を上げていたね
K 婆ちゃん、
昔の僕がどん底だったあの日、
車椅子の前にうなだれた僕をじっと見て、
立てた手のひらをゆっくりと横に振り
「負けちゃいけないよ」と
沈黙の内に語りかけてくれたね
今日もデイサービスに集まるお年寄りの背中を風呂場で流す為
K 婆ちゃんの告別式には参列できないので、
入浴介助を終えてびっしょり濡れた Tシャツ・短パン姿のまま
遺体の安置されている小聖堂の木の扉を左右に開いた
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