「ガラスの壁の向こう側」/服部 剛
 

頬の赤らみそうな鼓動を押さえて振り返り
ガラスの壁の真ん中をすり抜ける

・・・目覚めると、テーブルの上には、
食べ終えたケーキの残りかすが散らばる白い皿
窓際に立ったままの「Menu」
栞(しおり)を挟み損ねて閉じられた本

ガラスの壁の向こう
カウンターの中には
カップにコーヒーを注(そそ)ぐおばちゃんと
無人のテーブルを拭くもう一人のおばちゃんが
たわいのない会話をしている

日の暮れかけたガラスの壁の外で
竹垣の前にひっそりと立つ細い木の枝から垂れる
緑の葉が一枚、人知れぬ風に揺れている

昨日大阪の空の下から
一人きりの夜をまぎらわそ
[次のページ]
戻る   Point(6)