「ガラスの壁の向こう側」/服部 剛
頬の赤らみそうな鼓動を押さえて振り返り
ガラスの壁の真ん中をすり抜ける
・・・目覚めると、テーブルの上には、
食べ終えたケーキの残りかすが散らばる白い皿
窓際に立ったままの「Menu」
栞(しおり)を挟み損ねて閉じられた本
ガラスの壁の向こう
カウンターの中には
カップにコーヒーを注(そそ)ぐおばちゃんと
無人のテーブルを拭くもう一人のおばちゃんが
たわいのない会話をしている
日の暮れかけたガラスの壁の外で
竹垣の前にひっそりと立つ細い木の枝から垂れる
緑の葉が一枚、人知れぬ風に揺れている
昨日大阪の空の下から
一人きりの夜をまぎらわそ
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