「ガラスの壁の向こう側」/服部 剛
 
わそうと送られてきた
君からのメールに

「寂しくなどないさ」

と返信した嘘の言葉

閉店前の喫茶店で最後の客の僕は
コーヒーカップの残りをひと飲みすると
シャツのボタンを外した胸の内側に広がる
コーヒー色の闇に

 「ひとり」

というミルクを垂らしたひら仮名の白い文字が滲(にじ)む

テーブルの端に置かれた伝票を手にした僕はすっと立ち
レジに立って静かに微笑むおばちゃんの方へ歩く

財布を出そうと手を突っ込んだ上着の懐(ふところ)には
もう記憶に薄れた遠い日の面影

この薄い胸に寂しく顔を埋(うず)めた顔の無い誰かの
髪の毛の匂いを今も忘れられずに

緑に囲まれた山の中で 木立の上に空を仰いで
ゆっくりと形を崩し広がる雲間から覗(のぞ)く

 「永遠の青」

をふたり肩を並べて仰いでいた いつかの夢を
懐の内から 遠い昨日へ 葬(ほうむ)ることもできずに 







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