枯葉の散る頃/服部 剛
に走る黒い車と
老人ホームで見送る喪服の人々を眺め
空色に溶けてうっすらと浮かんでいる老婆の顔は
地上の人々と別れゆく前に
たったひとことの言葉を呟(つぶや)いている
昼食を食べる前に
老人ホームの売店を通り過ぎると
ガラスケースの中には
生前老婆が編んでいたいくつもの
猫やひよこのぬいぐるみが
黒い瞳にひとつぶの光を浮かべていた
流しで手を洗っているとラジオから
「古いアルバムをめくり ありがとうって呟いた」 *
という若い女性の唄声が聞こえてきて僕の胸の内側が少し滲(にじ)んだ
食事を終えて廊下に出ると
出棺の時に片腕で涙
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