魔法の文字 ー長崎にてー /服部 剛
真夏の日差しの照りつける
石畳のオランダ坂を下っていると
左手の幼稚園の中には
元気に足踏みしながら歌う
水色の服を着た子供達
入り口には
ひとりはぐれて泣いている男の子
笑みを浮かべた若い母がやって来て
「よし よし」
と抱き上げる
通りがかりの近所のおばさんが歩み寄り
「少しの間に大きくなったわねぇ」
と目尻を下げて覗(のぞ)きこむ
(腕時計の針は、正午を指そうとしていた)
石畳の坂道を下った町並みの向こう
青空にふくらむ入道雲の下
大浦天主堂の白い十字架をみつめると
長崎の鐘は青空に鳴り響き
鎌倉からやって来て
独り{ルビ流離
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