醤油/たもつ
ただ、醤油工場で働いていた人たちは
自分は今まで何をしていたのだろう、と
不安げに手を動かして何かの仕草をしていた
それも最初の頃だけで、やがて
今日も一日平和だねえ、と言いながら手を動かすようになった
+
こうして、人は
大切なことや大切ではないことを忘れていく
数年前に母が他界した
葬儀の後、母の部屋から私宛の手紙が見つかった
私はまだその手紙を読んでいない
読まなくても私にはわかる
父の死後も、母の中では何も終わっていなかったのだ、と
+
最後に、佐藤君について語っておきたい
私の詩が教室の後ろにはりだされたとき
それを読ん
[次のページ]
戻る 編 削 Point(92)