月夜のピエロ/服部 剛
やがてテントを夢色に染める
オルゴールの音(ね)は消えゆき
客席に響く拍手の渦(うず)におじぎするピエロ
幕が下りるとくるりと背を向け
舞台袖を降りて入った
楽屋の鏡の前に座り
白塗りの化粧を落とす
ピエロの頬に滲(にじ)む汗にまじった
一粒の青い涙を誰も知らない
夜になるとテントに集う
日常に退屈を覚えた寂しい客達
七色の大きいボールの上を
リズミカルな足どりで歩いては
すべって転んでしりもちをつくピエロに
今夜も腹を抱えて大笑い
楽屋で化粧を落とす時
ピエロの耳はすでに
数十分前の客席にどよめいていた笑い声を
遠い夢のテントの中
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