静寂からの呼び声 〜’02年 8月15日・終戦記念日〜/服部 剛
まれている
ガラスケースの中に並ぶ
召集令状
戦地から妻や子供に送った手紙
錆(さ)びたヘルメット
無数の小銭で作られた防弾チョッキ
赤茶けた写真に写る
戦地に散った軍服の若者の凛(りん)とした瞳
灰色の壁に囲まれた無人の資料室の中で
数々の遺品は水を打つ静けさの内に
沈黙の言葉を語りかけていた
僕は今まで知らなかった
五十年以上前に
引き裂かれ血にまみれた無数の命の悲鳴と引き換えに
築かれている戦後の平和な日々の暮らしがあることを
資料館を出て
無人の広場の中心に立ち
五十年以上前と変わらずに
木霊する蝉の鳴き声は
瞳を閉じる
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