『Alice』/川村 透
 
近付いてくるのだ。
銀鼠の灰かぶり姫、鱗粉が夜に舞う。
仮面を脱ぎ捨てると夜の渦の底、舌なめずりする街のざわめきを首から上にたたえ、
女はもう一度薄く笑っ、
手。
両手をなくした上半身だけの僕という薄鼠色の石膏像を抱き締めてくれる。
ああ、
太くて黒くて巨きくてイトオシクテという記号にツキウゴカサレ
手。
女は舌で僕の石膏の体に刺青を彫り込んでゆく、夜の国を。

河の、ヨウナモノ、ノナカ、デ。

舌はことばをさえずるのかそれとも女の国の夜の地図を刻み含み咀嚼する音色
舌ハことばヲサエズルノカソレトモ女ノ国ノ夜ノ地図ヲ刻ミ含ミ咀嚼スル音色

河の、ヨウナモノ、ノナカ、
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