春一番になった鬼/板谷みきょう
 

でも、吉は、わしらを一度も鬼だとは呼ばなかったんだ。
その赦しがな……ばっちゃには、何よりも痛いんだよ」

窓の外で、また一際大きく、屏風山が唸った。
風が孫の頬を、まるで誰かの指先のように、
優しく撫でて通り過ぎた。

「さあ、寝れ。吉が、隣にいる。
……笑ってる、気がするんだ」

ばっちゃはそこで、言葉を切った。
孫は何も言わず、布団の中で、
小さく拳を握りました。
あとは、風の音だけが、続いていました。

最終章 小さな並走

翌朝。
風の名残を残したまま、淡い朝の光が村に落ちていました。
ぬかるんだ道の端に、一輪だけ青い春草が芽吹いていました。

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