春一番になった鬼/板谷みきょう
 

人の姿か、鬼の姿か。
どちらでもいいから帰っておくれ」

吉は、はやて風のように山を駆け下りた。

だが、村の入り口には坊様のお札が貼られ、
村人たちの「来るな」という祈りが、
壁となって吉を跳ね返した。
吉は、村の外で、のたうち回った。
小さな灯り。夕飯の味噌の匂い。
かつて自分を裏切った人たちの、生臭い体温。

(……壊してやろうか。全部、無茶苦茶にしてやろうか)

吉の喉から、獣の唸りが漏れた。
だがそのとき、風に乗って澄乃の震える声が聞こえた。
吉は、拳を解いた。
肉体を捨て、骨を砕き、
ただひとつの「祝福」として、
村へ入ることを選んだんだ。
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