春一番になった鬼/板谷みきょう
だけは、と。
澄乃は、垣根のささくれが指に刺さるのを、じっと見つめていた。
喉まで出かかった言葉を、石のように飲み込んで、澄乃は言った。
「……もう、遊びに来ねぇでけれ」
吉は、動かなかった。
何か、続きを待っていた。
「嘘だと言ってくれ」と叫ぶ代わりに、
吉はただ、垣根の木を力任せに握りしめた。
ミシリ、と木が鳴り、
吉の爪が食い込み、血が滲んで泥に落ちた。
沈黙が、一呼吸、二呼吸、三呼吸……。
吉は何も言わず、
あごをガチガチと鳴らしながら、
闇の中へ去っていった。
澄乃は家に入り、力なく戸を閉めた。
その裏側で、澄乃は崩れ落ちた。
叫び出し
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