咲子?/たま
 
にして咲子は川の上流に向かって歩きはじめた。あわい煉瓦色のタイルを敷き詰めた遊歩道は、傾斜のゆるい階段型の堤に沿って延びていたから、けっこう幅ひろく開放感に満ちていた。コンクリートの堤にはところどころベンチもあったけれど、この炎天下に腰かけるひとはもちろん、遊歩道を歩くひとさえ見かけなかった。咲子とわたしの、犬のようなかたちした影だけが、付きも離れもせず歩いているのだった。
 涼しげな隅田川の川面は目のたかさにあって、川面の流れは意外と速く見えた。たぶん海が近いのだろう。隅田川に架かる橋のたかさに合わせたのか、押しつぶされたように屋根のひくい遊覧船が、いく艘となくさかんに行き来していた。その対岸
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