ショウヘイ/後期
い、きれいだよ!」雨は叩きつけるように降り、百姓も侍も、転び、叫び、斬られ、泥にまみれる。だが画面は破綻しない。泥は泥でありながら、造形になっている。「普通ならな、あんな状況は臭いはずなんだ。汗と血と糞と恐怖で、目を背けたくなる」
今村は、指を舐めるような仕草をして続ける。「でも黒澤さんは、それを“闘い”にしちまう。
“生き様”にしてしまう。
泥まで、役者にするんだ」そこで、少し笑う。
悔しさと敬意が、同時に滲んだ笑いだ。
「俺が撮ったら、ああはならない。泥はもっと重くて、冷たくて、踏み外したら、そのまま沈む」
黒澤の泥は、踏み越えるための泥だ。
今村の泥は、絡め取るための泥だ。
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)