咲子?/たま
奪われて行く体温が
あなたのものであったことに
気づいて
わたしは
ようやく
海の正体を知る
咲子(一)
青緑色と呼べばいいのだろうか。
かすかに金の箔押し文字が残るその表紙は、人工皮革の地肌そのままに体温を測ることもできず、海が解けはじめたころの氷河期を生き抜いた、古代人の皮膚のようで、触れるたび、わたしの頬のあたりを汐風がとおりすぎた。
それは、咲子が下井草のわたしのアパートに残して行った古い漢和辞典だった。
表紙をめくると、見返しを兼ねた頁に部首索引がある。一画から十七画まで、画数ごとに廊下があって、それぞれの部首の小部屋がならぶ図表は、
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