ちち/凍湖
 
あれは中学生のころだったか
母に連れられ下着屋に行き
子どもには不釣り合いなほど立派な刺繍の入った下着を
母は子に買い与えた
そんなものより
質素なスポーツブラがよかったのだが

わたしに一人用のベッドが与えられたのはいつだったか
まだ母と同じ布団で眠っていたころ
母はわたしに
わたしの乳を吸わせてほしいと言った
わたしが赤子(まご)を産んだら
おまえの乳を吸いたいと
おまえはわたしの乳を吸って育ったのだから返しなさいと

ちち、という音は父を思い出させるが
その肉の感触は母のやわらかい支配と侵入を思い出させる

オペを前に
ひとり暮らしの小さな風呂場
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