ノルウェー舞曲/牛坂夏輝
 
ジの間に挟まれた完全な吐息に
そっと触れる

透明な鉄線の犬が走りぬけ
ノルウェーの青銅の香る断崖が揺れるたびに
歪な窓辺の感情を抱えた
海の底へ落ちていったはずの
赤い手袋が
また私の軽やかな鎖を掴みに帰ってくる

「あたしの秘密は贋作だわ。いまになって仕事を調整して、
わざと季節の風邪をひいて、あんたの城壁を引っ掻いてやるわ」

貸与された筋繊維を剥き出しにした
その犬たちは語るのだ

夜になる
舞曲の羽毛の譜面は
湿った結晶体の上空でひらき
鳥たちがピアノの音で鳴く
光る糸で結ばれた無数の前立腺たちの
ゆるやかな舞踏の足取りが
北風の羊毛を縫い合わ
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