小さなメモふたつ/由比良 倖
。そして僕はまだ、ニックが手に入れた秘密のギターに触れたことがないし、それを見たことすらないのだけど。
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夕陽の前に立つと卑屈になります。だって私は記号しか見ていないから。夕陽だって「夕陽」という記号で、私はもう夕陽そのものにはなれないし、夕陽に当たる私の体温は冷たく、冷や汗に覆われて、私はぎゅっと目を瞑るしかなくなります。
隣に人がいれば私は笑っています。「元気」という顔を私はしますが、それは顔色だけです。あなたの顔色をうかがう私だけです。
ヘッドホンを付けています。ヘッドホンの中は、私の家だという感じがします。家があるだけ私はましです。スピーカーで音を浴びるのも好きです。ヘッ
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