すすき野原で見た狐(下巻)/板谷みきょう
 
崩れた。

与一は谷へと滑り落ちる。その刹那、空気は一瞬静まり返り、白い苺だけが微かに光を放った。彼はその果実を、命と引き換えに掴み、岩陰に倒れた。

狐は、目の前で起きた光景を息を詰めて受け止めた。一瞬、全てを失った絶望に立ち尽くす。しかし、すぐに駆け寄る。与一の手には、白く、小さな苺が握られたままだった。

狐はそっとその果実を口に含む。淡い光を帯びた香りが、無言の努力、孤独、そして魂の輝きを胸の奥深くに染み渡らせた。悲しみの涙はない。ただ――与一がこの世界に残した純粋な愛が、この苺の中に、確かに生き続けることを、狐は深く感じ取った。

山の中に、二人の孤独と献身が、永遠に重な
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