すすき野原で見た狐(下巻)/板谷みきょう
第一章:苺を求めて
春の終わり、与一は「せせらぎの峰」を目指して旅立った。足元の土は湿り、谷を覆う霧が視界を遮る。冷たい風に打たれながらも、彼の胸には、季節を問わぬ白い苺という“祝福”があった。
「必ず……この手で、希望を」
息を切らし、ただ岩を登り続ける。手のひらに刻まれる苔の感触。全身で自然と向き合う彼の心には、一匹の狐との間に育まれた、誰にも言えぬ確かな連帯が灯っていた。
岩陰から、狐は静かにその背中を見送る。化けの術は今、封じられている。ただ、与一の決意の強さが、自身の胸に痛いほど響くだけだった。
第二章:悲劇と献身の香
頂上に近づいた瞬間、乾いた音を立てて岩が崩れ
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(2)