すすき野原で見た狐(上巻)/板谷みきょう
の静けさこそ、狐の精一杯の感謝だった。
夜、狐はまた葉をのせて回る。失敗すれば、肩を震わせて悔しがり、また新しい葉を取りに行く。
孤独な努力が、与一のひそやかな心遣いと重なり、言葉はなくとも、不思議な連帯が芽生えつつあった。
第三章:小さな芽と小さな焦り
季節がめぐり、畑にようやく幼い芽が出た。頼りない、弱い緑。
与一は毎日水をやり、腰を折って見守る。村人は笑った。
「芽ひとつで、なにが実る。何が育つ。」
与一は返さない。その沈黙が、狐にはどこか痛々しく見えた。
狐もまた、化けぬ己に焦りは募るばかり。月明かりの下で回るたび、すすき野原がざわりと鳴り、その音が胸の奥まで揺らした。
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