すすき野原で見た狐(上巻)/板谷みきょう
た。
「……もう一度、ここからだ……」
小さくつぶやくと、荷車から品々を降ろし始めた。十字架、仏像、神棚、曼荼羅――由来の知れぬ祈りの欠片たちが静かに陽を浴びる。
その決意は、誰にも知られぬところで、ひどく孤独だった。
第一章:すすきの影の狐
すすき野原の奥、薄い影の中に、一匹の狐が身を潜めていた。
「おやっ……めずらしい事もござっしゃる。 村を出て行く者は、たあんと見掛けたことがあるが、 村を訪れる者がござっしゃるとは……。」
狐は草を揺らさぬよう首を伸ばし、与一を凝視する。
それにしても、あの男の、なんと変てこな格好をしてござっしゃろう。 あれほど汗を流して
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