道化人形(修正版)/板谷みきょう
 
も人形に目を留めません。
それでも、人形は静かに回り、逆立ちを続けました。
蠅が羽を休めにきた日、人形は弧を描き、後ろ回りを披露しました。
――今日を生きるだれかの心が、ほんの一瞬でも軽くなるなら。
鳩が窓に止まったとき、人形は片手逆立ちをしてみせました。
鳩は首をかしげ、そっと囁きます。
「ねえ、君。その力を、空を飛ぶことに使ってみない?」
けれど人形は、ただその場で舞い続けていました。

ある夜、月はいつもより大きく明るく、窓いっぱいに満ちていました。
人形は、光の中を後ろ回り、逆立ちし、細く揺れる影と、月光に身をゆだねます。
光は胸の奥に染み込み、遠い記憶を呼び覚まし
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