鬼吉と春一番(修正版)/板谷みきょう
 
めに、
偉ぇ坊様によぉ。「願掛け祈祷」ば頼んだのよ。
村の入り口、全部に、お札を貼ってもらってよぉ。

だども、澄乃だけ、村の決まりごとを破るみてぇに、吉の帰りを願ってたんだ。
「わたしの吉は どこにいる
山の小鳥よ 伝えておくれ
わたしはいまでも 待っている」
いつのまにか、吉は屏風山の主となってたんだ。
彼の耳は、もう、ちっぽけな虫の足音から、山向こうの星のまたたきまで
感じ取れるくらいに鋭くなってたんだとよ。
見るからに、吉の姿ぁ、鬼そのものになってたんだ。

ある日、澄乃の歌声は、木の葉の隙間を縫って届く。小鳥たちが真似して
「キチ、キチ、キチ」とこだまし、森じ
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