鬼吉と春一番(修正版)/板谷みきょう
 
森じゅうに響いたんだってよ。
吉は聞いた。硬い鬼の胸の奥底で。
まだ、やわらかい人間の面影が、ぎゅうっと締め付けられるんだべなぁ。
「俺は…俺は、まだ人間でいてぇ。澄乃に逢いてぇ。俺は吉だ。
お前が、一人で、苦しんでるんなら、俺が、助けに戻ってくぞぉー。」

吉は、真っ赤な火のような形相の鬼となって、はやてのように村へ向かった。
屏風山から「ごうごうっ!」と怒涛の音を立てながら。
それは、澄乃を想う、切なく、純粋な、助け合う心の風だったんだ。

したけども、村の境に着くと、
村人の強すぎる「悪を拒む心」と、
吉の澄乃への「優しさ」がぶつかり合った。
鬼の姿は、からりと消え
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