暦せんべい/室町 礼
 
大人になってからも
幼子(おさなご)が小さな水たまりをみつけて
いっさんに駆けていき
ズボンが濡れるのもかまわず
チャプチャプ踊りだす姿を見て
うらやましく思っていた。
この羨望はどこからくるのだろう。
地表の小さな凸凹にたまった
泥水さえも
人が年月をかけて手に入れた
自然からの
贈り物である。
陽の影が
童話の国の魔法使いのように
長くのびる午後、
気がつくと
舗道に敷きつめられた
枯れ葉の絨毯を
煎餅を踏むように
パリパリと小さな音を立てて
歩んでいた。
細かく割れていく音が
耳朶に心地ちよく
樹木はいつも見返りを求めず
眼と耳を
  
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