暦せんべい/室町 礼
 
  楽しませてくれた。
春には花を吹雪いて季節の始まりを告げ
夏には深い木陰が陽をさえぎり
秋には紅葉が鮮やかに別れを語った。
冬の始まりの前に
 踏みしめる枯れ葉の音が
  ひとつひとつ煎餅を割るように
年を埋葬する。
その音の 深淵で 軽くて
あと腐れのない響きは
浅草のおばあちゃんが店先で焼いた
江戸前煎餅の
ぱりぱりのようであった。
ふと お茶を飲みたくなる。
土に還り
次の季節に捧げられる暦の循環の一章。
宇宙は見返りなんて求めない。
わたしに踏まれた
枯れ葉が
風に吹かれてわたしの頭上を未来へと
追い越していった。






※唐草フウさんの詩
「おちば」
https://po-m.com/forum/i_doc.php?did=393801
に感銘を受けてインスパイアされたエセー詩です。
※暦煎餅
東京の老舗「松?煎餅(まつざきせんべい)」の代表
的な商品「大江戸松?暦(おおえどまつざき こよみ)」
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