秋、帰る 蒼風薫/梅昆布茶2
秋はこの日風となって街を歩いていた。いよいよ困り詰めて、少し頭を冷やそうかと荒川の土手にやってきた
自分は少女の大切な人の死神の役を神さまからいただいている、というのが真相なのである。
しかし、すっかり憔悴しきっている、彼に唯一の女性にとってのかけがえのない命を、と思えば意気消沈しするのも当然だろう。
おまけに神戸の約束を果たすために許された時間は情け容赦なく過ぎ去ってゆく。
『つまり、はっきりとさせなければ』
秋は思った。
自分は一人の少女の平凡な慎ましい幸せを奪って神様に届けるお使いであるということである。いついつも
仰せつかって嫌な役割である。
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