全行引用による自伝詩。 03/田中宏輔2
 
い赤紫色の尾灯。煙草を切らしたときの
きみの動揺の身振り。きみが
犬に微笑みかけるときの仕草。銀白色のぬるぬるした
かたつむりが板石の上に残す跡。この良質のインク、この脚韻(ライム)、
この索引カード、落すといつも、
&の形(アンパーサンド)になる この細長いゴムバンド、
それらが天国で新たな死者によって見出され
その砦のなかに長い歳月たくわえられるのだ。
(ナボコフ『青白い炎』詩章第三篇、富士川義之訳)

 スヴェンのいうとおりだった。シルヴァニアンはビーズつなぎに苦心する必要があった。彼は手仕事をしている間は、考える必要はなかったのだ。彼の手が、彼の代りに考える
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