全行引用による自伝詩。 03/田中宏輔2
 
く視線を走らせよ、そしてよく見るのだ。
(フエンテス『脱皮』第二部、内田吉彦訳)

 過酷な逆説だが、あらゆるものを表現し、あらゆるものに意味を与えようとすれば、結局それは、あらゆるものから意味を?奪することになり、文学という冷たい、人為的な方法によって、あらゆるものを表現するのは不可能だということを知らされる破目になるのだ。それに気がついたのはいつだったか? レストランの主人夫婦に浜辺から追い立てられた、痩せて、貧しい、無花果売りの女の、あの下品さそのものであろうか? ぼくの視線を捉えようとするその女の眼を見るのをぼくが拒否したこと、その女と、女が抱えている問題がぼくの思考の中に入り込み、
[次のページ]
戻る   Point(11)