人妻温泉旅館/atsuchan69
中では押し合う人波。人に囲まれながらも、私は孤独だった。
そんな日々の中で、海辺の一軒家だけが私の逃げ場になっていった。月に一度、あるいは二度、車を走らせて港へ向かう。高速道路を降りるときには、胸の奥の鎖がひとつ外れるように感じた。
だが、心地よさの裏には後ろめたさもあった。泊まるたびに私は「宿代のつもりです」と封筒に紙幣を二枚入れて渡した。遥は、「そんな……お金なんかいらへんのに」と首を振るが、私は無理に手渡した。そうでもしなければ、自分の立場を保てないように思えたのだ。
ある晩、囲炉裏端で二人きりになった。七海はもう眠っていた。火の明かりが遥の頬を赤く染め、彼女の影が畳に揺れた
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