人妻温泉旅館/atsuchan69
 
手をかざしながら、グレの刺身や魚すき鍋を囲んだ。季節ごとの魚が、私たちを自然に結びつけていった。
 遥は庭に洗濯物を干し、七海はその足もとで地面に絵を描いた。私は釣果を見せては娘に自慢し、彼女は歓声をあげた。港町の市場に立ち寄ると、乾物屋の老人が「また来たんかい。あんた、あの家に世話になっとるんやろが」と冗談めかして笑った。
 都会に戻れば、賑わう雑踏と忙しい日々が待っていた。書類と締め切りに追われる日常。けれどもふと、車のトランクに眠る竿と道具箱に触れるたび、私は心の中で次の訪れを数えていた。


 崩れゆく日常

 大阪の暮らしは、単調だった。会社の窓から見える御堂筋、電車の中で
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