人妻温泉旅館/atsuchan69
 
っかりなくなってしまって」
 言いかけて、女は小さく首を振った。
 娘は土間でバッカン(バケツ)を覗き込み、釣れたばかりのアジに目を丸くした。
「わぁ、たくさん釣れたんやなあ」
 彼女はしゃがみ込み、じっと魚を眺めた。女が笑いながら「勝手にいじったらダメやで」と声をかける。その笑顔に、私はふと胸を打たれた。
 彼女の名は遥、娘は七海といった。夫は遠洋漁業に出ているらしいが、もう何年も戻らないのだという。だが、言葉少なに語る様子から、それ以上を聞き出すのはためらわれた。
 夕餉を共にしたあと、私は辞去しようとした。だが女は、「せっかくやし、ゆっくりしていってください」と言った。二日の休み
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