人妻温泉旅館/atsuchan69
 
いる。
 戸口に立つ女は、黒髪を後ろでまとめ、簡素な割烹着を身につけていた。私を見ると一瞬警戒の色を浮かべたが、娘が「このおじさんに助けてもろうたんや」と言うと、頬を緩めた。
「どうぞ中へ。せめてお茶くらい」
 その声に導かれるように、私は家の中へ足を踏み入れた。潮の匂いと畳の香りが交じり合い、外の冬風とは別世界のぬくもりがあった。


 ふたりと一人

 居間に通されると、囲炉裏の火が静かに燃えていた。鍋の中で味噌汁が湯気を立て、海藻の匂いが鼻をくすぐる。女は私に湯飲みを差し出した。
「漁師町ですから、昔は知らない人を泊めることもありました。……でも、いまはそういう風習もすっか
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