リトルブレイン/おまる
 
る。馬の嘶くような甲高い大声で喋る男である。こいつには裏の顔がある。自分はその他大勢とは違う。特別な存在なのだと世間にどうしても認めてもらいたい、そのためなら何でもするし何をしようが構わないという類のクソ野郎である。新人時代、合宿研修での出来事である。夜中におれの部屋に押しかけてくるやいなや「10万貸せ」とやってきた。彼独特の妙な迫力に気圧されて、断り切れなかった。果たしてこんな男とうまくやっていけるのかどうか、俄かに疑いが深まり、その夜はまともに眠れなかった。それでも悩みに悩んだあげく貸してやることにした。当時のおれはというと、ひとりぼっちで田舎から東京に出てきたイモで、孤独で心細かったのである
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