こころのかける  涙の一滴(ひとしずく)/洗貝新
 


 零れおちる一滴を口にした

これは絶命を前にした人の、閉じた眼から涙を掬うという
誰かが書き記した言葉である
多くに看取られて冥土へ旅立つ者もいれば
ひとり、寂寞と三瀬川を渡る者もいる
安らかな臨終の気配には
静かな嗚咽の涙腺だけが響きわたる

 涙はこころの汗だと歌われる

スポーツを題材にした青春ドラマの主題歌にある
ほとばしる汗を引きつれて溢れ出る涙
悲しみや喜びを飛び越えて
なんとも爽やかに飛沫する表現だろう
こころの汗がその躍動を表す涙ならば
肉体を離れては沈み去っていく
その静的な涙とは一体何で表せばよいのか
目的が成就したときの喜び

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