COME TOGETHER。/田中宏輔
 
れは、夢だったのか、夢が見させた幻だったのか、父親の腕につながった透明なチューブに海の水が流れていた。その海の水が部屋にこぼれて、


  〇


それは、ぼくがそのチューブを傷めたのか、はがしたか、切ったのだろう、父親が、ぼくに海水の流れるチューブをもとに戻すように言った。言ったと思うのだけれど、声が思い出せない。夢ではいつもそうだ。声が思い出せないのだ。無音なのだ、声が充満しているのに。


  〇


川でおぼれたオフィーリアは、死ぬまで踊りつづけた。踊りながら溺れ死んだのだった。ぼくの父親は、癌で亡くなったのだけれど、病院のベッドのうえで、動くことなく死んでいった。
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