陰翳/積 緋露雪00
 
に動き回り始める。

その時こそ、俺は俺から一時遁れる。
此の至福の時に、俺は安寧の声を上げで、
しみじみと俺を振り払ひ、
俺から遁れた俺を抛っておくのだ。

そして、俺が抜けた俺の抜け殻は、
最早俺である必然はなくなり、
俺もまた、陰翳に惑はされるやうに
抜け殻の俺は何ものかに変容する。

そして、存在の化かし合ひが始まるのだ。
いづれが狐か狸かは問はずとも、
此の化かし合ひについつい夢中になり、
あっと言ふ間に夜の帳が降りてくる。

宵闇の中に溶けゆく存在の陰翳は
更に自在に蠢き回り、
最早、いづれが俺なのかは判別不可能なのだ。

そんな夜の帳の中、
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