蕊/あらい
 
星の砂の上を歩いて亘る、洋館までの距離は計り知れないほど、遠く。線路上をとぼとぼと征く、男の姿は朧げであったが、なにがご機嫌なのか調子外れた鼻歌なんかがよく似合っていた。

その片手には黒く小さな蝙蝠傘を広げたもの。回したり投げたりてのひらで転がしたり、まるで彼女と手をつなぐように、ふわりと舞っていった、彼の、くろいかげの端々がときおり、炎のように揺らめいたりする、夕暮れ時の公園まで。

ちいさいばかりの思い出をこうして滑り落ちれば、灰のように風化したりするのに、死海で捉えているブランコに揺られながら――なぜ、ひとりぼっちだ。ふいに濃淡を繰り返すだけのフィルムカメラの、チリチリとした(、ま
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